近年制作している「View Tracing」のシリーズでは、暗闇で紫外線に反応して蛍光する糸を用いて空間やオブジェをポリゴンで描き出し、CGのような非物質の概念の景色を作り出しています。デジタル技術による3DCG表現が急速に発展する現在だからこそ、アナログな手法を用いて作り出されたフィジカルな彫刻やインスタレーションは、私たちが暮らす現実空間において、２次元と３次元を行き来するような身体感覚の揺らぎを与え、「見えているものの本質は何か」と考えさせる力があるのではないでしょうか。

熱海市内各所を会場としたアートイベント「ATAMI ART GRANT」では、当時宿泊営業を終了していたホテルに１ヶ月間滞在して作品制作を行いました。私は元料亭・黒潮の和室を展示会場とし、紫外線に反応して蛍光する糸を用いて和室の空間やホテルが営業していた時代を彷彿とさせる日本のレトロな置物などモチーフとしてそのアウトラインをなぞることでポリゴン化し、そこに残る痕跡を辿るような思いで制作しました。

タイトルにある"Trace"という言葉には、写し取る、輪郭や線などを描くという意味のほかに、跡を追う、さかのぼって探る、といった意味があります。

糸、UVライト、 既製品

ATAMI ART GRANT 2022 [HOTEL ACAO ANNEX・静岡] 2022
©ATAMI ART GRANT 2022
Photo: Naoki Takehisa